人はパンだけで生きるのではない

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明日のたりないふたり感想

先日開催された明日のたりないふたりを観て、今さらながらつらつらと思ったことを。

 

わたしと「たりないふたり

まず、私がこれまで多少なりともお笑いライブに行ってきた中で、最も良い体験だったのが「さよならたりないふたり」だった(ライブビューイングでしたが)。

順位つけるものでもないんだけど、言ってしまえば運良くチケット取れて参戦できたオードリーANN10周年武道館よりも、ある種楽しませてもらった。ベクトルの違いはあるので武道館ライブは武道館ライブでもちろん最高だった。が、さよならたりふたの2時間近くに及ぶ即興漫才は2019の御二人の状況もあって、本当に凄いモノを観たなあという感じだった。終わったあとはなんかため息が出た。

とは言え、12年前からの超熱心なたりふたファンというほどではなく、結構にわかな部類だ。恐縮です。ファン歴的には潜在異色はしらなくて、TVのたりふたを一応見て、その後しばらく空いて(アンテナ感度が低くてずっと見逃していた)、さよならで久しぶりに見て感動したという感じ。

 

そんな中、「さよなら」が最高だっただけに、思いのほか早く再開した(もちろん嬉しかったが)ように見えた「2020春夏秋冬」は、ちょっと話の流れに不穏なものを感じていた。

もちろん相変わらず最高に面白いんだけど「できる」若ちゃんが、「まだたりない」山ちゃんを諭す構図になっているのが、二人ともそれはそれは抜群の腕を持っているのでエンタメとして昇華はされているけども、大丈夫かなあ、山ちゃんしんどくないかなあという一抹の不安を感じさせるものだった。

 

 

山ちゃんと若ちゃん

それにしても二人は稀有なプレイヤーで、言わばタッグトーナメント編におけるキン肉マンテリーマンの「ザ・マシンガンズ」だ(まぎらわしいが)。二人ともそれぞれ、マッスルブラザーズとニューマシンガンズという、元のコンビ、本妻はあるし、尊重したいんだけど、ボケの若ちゃん、ツッコミの山ちゃんが、それぞれニンの面で最高に輝くのがこのたりふたの組合せなんだと思う。

ちょっとやっぱ、若ちゃんがあれほど自由に発想力を発揮してドライヴできるだけの相方、また、山ちゃんがあれほどの瞬発力と熱量とでノートとアドリブのツッコミを決め続けられる相方というのが想像つかない。さよならで見せた、あんなクオリティの即興漫才できるのって、ドリームマッチでも見ることはできないだろう。

 

本当に最高の組み合わせなんだと思うし、だからこそそんなキレイに解散しないで、年一でのトーキングブルース的に楽しませてほしいなあと、見終わった今でも思う。

はっぴいえんどとかBOOWYとかフリッパーズギターとかユニコーンとかThe SmithsとかThe Jamとかゆらゆら帝国とか、そんな絶頂期での解散なんて、単にカッコいいだけじゃないか。これが方向性の違いで、もう何も生み出せないとかならまだしも、年一とか隔年ででもいいから、楽しませてくれよーと思う。

でも、もはやここ昨今の流れで結婚とかビッグイベント(不毛では逮捕されて出所したらなんて言っていましたが)でもないと再開できない感は変にあって、まあスタッフの異動も大きな要因というトークもあったかと思うが、なんとかならんのかなあと思う。だって今回もオンラインで35,000人と、お笑いジャンルで最大の集客力のあるコンテンツなのに!

 

 

明日のたりないふたり

さて、本編だが、、、思い入れがないとちょっと引くぐらいのおじさん青春劇になった。なんかちょっとピンポンの最終回見てるような気分になった。アラフォーのユメギワラストボーイ。

開始からしばらくは二人ともすごいかかっていて、ああ、やっぱお客さんが入っていればもっともっとドライヴできそうなのになあ、と思ったが、中盤以降は本当に無観客ならではの、無観客でしかできない内容で、本当にグッときた。歯のないおじさんのくだりとか物理的という意味ではなく、あの展開の熱、感情は観客が入っていたら、あそこまで出てこなかったのではないか。

個人的なハイライトは、山ちゃんの「アップデートアップデートうるせえなあ!」という魂の叫びと、あんまりいないと思うけど、若ちゃんの独白で、不毛に乗り込んだあと「竹槍やめてアップデートしろよって簡単に言ったの間違いだったと思って、車止めて泣いたよ」ってやつ。

今回のライブ、私も正直8割の若ちゃんファン側ではあったのだが、2020の春夏秋を経て、山ちゃんガンバレ、そんな卑下するもんじゃないよ、あなた実力者なんだからと、どんどん両者イーブンに寄り添う心境になっていった。(とはいえ、140は2回行ってる程度には山ちゃんファンでもあるのだが)

 

復活をカッコ悪いなんて一ミリも思わないから(そういうファンたくさんいると思う)、いつか、タイミングだったり機が熟したときに「まだまだたりないふたり」でもやってほしいなと思う。できれば大き目なキャパの会場で。

 

 

 

オードリーについて

それにしても、オードリーはギリ天下を取ってないぐらいなのかもしれないが、いつの間にか非常によいポジションにいる。贔屓目かもしれないが。芸人が憧れる芸人ランキングでダウンタウンに次いで2位ってすごいことだ。ダウンタウンはある種どうしても別格みたいなものがあるから。

極個人的に、オードリーの二人と私は同じ歳で、立場は違えど、ド氷河期世代として燻っていた時期が同じため、(本当に勝手に)シンパシーを感じていた。2008年のM-1で彼らが世にでてきたときにも(本当に本当に勝手に)いや~よかったなあ!と謎の自己投影までして心動かされたものだった。

 

世に出た当初は春日さんのキャラ押しでいけるところまでいき、その後は若ちゃんの人見知り芸人、じゃない方芸人、読書芸人とかでの活躍で、世に潜在的にいるインドアなナード志向の人々の心をグッとつかみ、時代の流れに乗ったというか呼び寄せたというか、あとは才気で順調に売れっ子になっていった。

R-1の功績はバカリズムさん、KoCの功績はバイきんぐを世に出したことで、すべらない話の功績はケンコバさんを世に出したことだと思うが、アメトーークの功績は麒麟川島さん博多大吉さんと並んで若ちゃんを世に出したことではないか。

 

今では芸人人気もあるし、あちこちオードリーなんて、もう完全にポストアメトーークの番組だ(それでせっかくゴールデン昇格したと思ったら、早速お笑い実力刃が裏でやってきたので、お願いだからがんばって続いてほしいなと思う)。

もちろんラジオという本音を喋る場があることで(それを維持できているのも話芸の実力あってこそだが)、バカリズムさんもああすればよかったと唸らせた生き様芸人として、今後も長く活躍するだろう。

 

 

 

南海キャンディーズについて

山ちゃんはその点どうしても相方が、もちろんいい相方なんだけど、そこはどうしても、千鳥、かまいたち、オードリーといった同世代のポスト天下組らと比べると、コンビとしてのパワーが一段下がってしまうように見える。やはりそこはコンビとしての代表番組をいかに作れるか(巡り合えるか)になるのだろうか。

そう考えると、一時期の異常な不仲時代が、今でこそネタにして回収してはいるにしても、もったいない。まあでも人生色々あるしなあ。今からさらに昇っていくためには、素人考えで恐縮だが、不毛な議論をコンビでやるというのも考えられないものだろうか。結婚の頃とかたまにあったコンビ回、感触悪くなかったように思う。ナイナイANNで一度離脱した矢部さんが戻ってきたぐらいだから、何とでもできるとは思うのだが。

 

でも考えてみれば、男女コンビでそうした天下を取った例って多分なくって、いまでこそ、相席、ゆにばーす、メイプル、蛙亭、納言、パーパー、ラランド、シンクロ、ウェンズデイズとちょいちょい出てきたものの、男女コンビで天下だったり、太い代表的レギュラー番組ができた例ってちょっと記憶にない。

 

そんなところを、なんとか南海キャンディーズで切り開ければいいのになあ、なんて思ったりする。南海キャンディーズは2003年結成ということで、ぜひ結成20年となる2023年目標で何か起きないものか。まずはライブをがんばってもう一度漫才から、という感じかもしれないけど。

漫才と言えば、ちょっと前に南海キャンディーズ寄席を草月ホールに観にいって、その時の漫才が、アドリブ感があって大変面白かったのを覚えている。それこそオードリーに近いものを感じた。案外、ネタでまた再評価されていったりするのかもしれないな。それはそれで2回目のM-1 2007で一度折れてしまったように見える南キャンヒストリーとして熱いものがある。

 

 

 

次のたりないふたり

見終わってふと思ったのは、次のたりないふたりは誰だろうか。

改めてたりふたを振り返ってみると、やはり当時それまではネタ的に表現することが難しかったというかはばかられたというか、人見知り芸人とかじゃない方芸人とかインドア芸人とか。サブカル志向的な陰方面orientedな笑いが、時代をグリップし、少なくない層に刺さった感がある。

劇中でもあったが、ユニットの初期の代表テーマ「飲み会が嫌い」という態度表明は、確かに2010年頃では画期的なものだった。飲ミニケーションがまだ全然有効な時代だったし、TV業界、芸人もイケイケなマッチョイズムが強く残っていた中での勇気ある告発だった。それは共感する人々を大変勇気づけるものですらあった。

 

先日アメトーークでの生きづらい芸人の回に、久しぶりにそうした内側志向のネガティブ性を見たが、あそこに次のたりないふたりはいるだろうか。

最右翼はあちこちオードリーの出演あたりを機に爆発してきたパンサー向井さんだとは思うが、もうひとり、サブカルに造詣のある人がいれば・・・と思う。で、それは親友のチョコプラ長田さんではなさそう。読書習慣という滋養によって身に着く類の感性、それを感じる人はその回には見つけられなかった。(お笑い芸人としては野田さんからGAG福田さんまで好きな芸人揃いだったが)

 

向井さんも、その内側のネガティブ性や、その表側のスター性やニンの部分は申し分ないのだが、たりふたはそれだけではなく、ある種のサブカル感、文芸性まで持ちつつ、話芸における発想力(若ちゃん)と瞬発力(山ちゃん)を備えていた、とても稀有な二人だったのだ。

そう考えてみれば、あの二人が邂逅したのもなかなかの奇跡であり、さすがに向こう10年ぐらいは出てこないのかもしれない。ちょっと第七世代には見つからない。もし出てくるとすれば、それこそ本当に価値観を築く思春期に若ちゃん山ちゃんを見て育ち、二人に憧れて芸人目指しました的な、2012~2021年で14~23歳ぐらいを過ごしたような、これから養成所を経たりして世に出てくる人を待つしかないのかもしれない。

 

 

私個人がそのころに同じ熱を持って共感できているかは置いておくとして。